信濃町から飯綱町、小布施町を経由して、須坂市に入ると桜の名所の臥竜公園がありますが、その近くの須坂市メセナホールで「
信州岩波講座」が開かれるというので、過日行ってきました。
今年は、第20回目だと、講座のタイトルは「
今、くにのかたちはー歴史を向き合う」。
登壇された方の中に、元中国大使でおられた丹羽氏、そして昨今安倍政権から何やかやと言われている前(元)文部事務次官の前川氏などがおられ、普段聞けないようなためになる話が聞けるのではと、3日に分けて開かれた講座に出かけてきました。
一言でいうと、大変内容の濃い講座でした。
今年で20回目の開講ということで、こんなに素晴らしい講座のことを何で知らなかったのだろうか、私の回りにはそれを伝えてくれる人が今まで居りませんでした。
初日の開講では、まず須坂市長さんが挨拶されました。 挨拶の内容をメモできなかったので、正確な記憶がないのですが、まずもって、この挨拶が素晴らしく、これから始まる講座の質をうかがわせるものがありました。
登壇者のお話をきちんと記録できたか分かりませんが、自分なりにまとめてみました。
◎一日目は、伊藤忠元会長、元中国大使の
丹羽宇一郎氏 「
日本の国是と未来の姿」。
まず、「日本が一番のものは何ですか?」と、国勢や経済などの数値を色々上げ、結局は「日本の平和憲法」ではないか。 平和憲法があるからこそ、過去70年間も我々は平和に暮らせて来たのではないか、ということでした。
そして、食糧自給率を上げて、自然に対する安全保障をはかり、中国と仲良くすることが大事で、日本はアジアの平和を維持するための積極的な役割を担うことができる。 というものでした。
二日目に、要約された資料が配布されました。
◎二日目は、憲法学の
樋口陽一氏と
中島岳志氏
◆
樋口陽一氏の「
戦後日本を保守することの意味」
1時半からの講演は、東京大学名誉教授の樋口陽一氏の「戦後日本を保守することの意味」
で、憲法学の立場から昨今の改憲論の誤りを糾されていた。
2012年過激なナショナリスト政権が誕生してから戦前回帰の思考が喧伝されているがそれは間違っている。
「正」の資産の積み重ね、均衡の取れた見方が必要。
かつての日本は主権国家として戦争をはじめ、主権国家としてポツダム宣言を受け入れたわけだから、お仕着せ憲法受諾という考えや改憲理由は誤っている。
菅原文太、美濃部、吉野作造、旧態としてのリベラル、ネオリベラルなど
◆中島岳志氏「死者の立憲主義」
死者と共に生きる、親しい編集者の死に対し、コトバにならない言葉を感じた。
キューバ旅行中に東日本大震災の報に接し、キューバのテレビの映像では、逃げまどう人々が今まさに波に飲みこまれる所を写していて、驚愕な思いをされた由。
そんな体験の中で、死者とのコミュニケーションが今を生きる人々の拠り所ではないかと言う。 権力を縛るものとしての立憲主義の主体は何であろうか? 過去に失敗を重ねてきた先人や死者に倣う、なげかけてくるものに対する観念が必要ではないか。
立憲と民主とのバランス、均衡をはかることが大事だ。
憲法の回りにある不文律が大事で、今や慣習などが不用意に拒否されている。
死者を二度殺ししているのが今の政治体制だ。
柳田国男の「先祖の話」の序文に、「死んでも使命はある」というくだりがある由。
「いいご先祖になること」に意味がある。
三日目に、要約された資料が配布されました。
◎三日目、
前川喜平氏と
小島慶子氏
◆
前川喜平氏 「
生きることと学ぶことー個人の尊厳から考える」
今の社会で一番大事なテーマは教育ではないか。
一人一人の人間は憲法という規範のうちに生かされている。
立憲主義とは国民が法を作り、国がこれを守るもの。
日本国憲法は平和主義の元にあって、戦争こそが個人の権利を蹂躙している。
学問の自由、学ぶことの自由は誰にも等しくあり、その学習権は生存権とも言える。
人類普遍の原理、それが憲法であって、これまでの人類が勝ち取って来たもの。
南アフリカが憲法を制定する際、主要国の憲法を参考にし、その中には日本国憲法もあった。
水に対する権利の確保を明示している憲法もある。
憲法改正をするなら他国の憲法を学習すべきだ。
多様性を認めることが大事。
南ア憲法は性別についても差別しないと明記 gender
Sexual orientationはあくまで指向であって、嗜好というのは誤解。
ひょっこりひょうたん島 勉強の歌 ガバチョ サンデー先生
人間らしい人間になるために勉強する
等しく教育を受ける権利
国が教育を保障する義務を負っているはず
皆が等しく教育を受ける権利を持っており、日本で使われている「義務教育」という名称はふさわしくない。
夜間中学校の例でみると、百数十万人が義務教育を受けていない
卒業していても、128千人が小学校課程を未終了
不登校が13万人いて、形式卒業者が増えている
十分な教育を受けていない こぼれ落ちている人
教育確保法
学校の外でも、学習の場を設ける必要がある
兵式体操 に似た教育では馴染めない子がいるはず
大阪の学校をモデルにした映画「みんなの学校」 約束事は1つで自分に嫌なことは人にしない。 自分で自分を変えて行く学校 風呂敷
学校はある種の権力組織
フリースクールも選択肢ではないか
夜間中学は半減して31校だが今年2校増える
在籍者は外国人が多く、中国、ネパール、在日、ベトナム、フィリピンの順
外国人のための夜間中学が必要
1987年 教育は個人の尊厳
生涯学習 教育は上から目線であってはならず、学習者が主体
グローバル資本主義のもと、単一民族(?)では暮らせない社会になっており、多様性が求められている。
臨教審のパラドックスといわれる教育改革では中曽根の思惑が外れ、森喜朗のときは、滅私奉公を提言するも、早期に退陣。 そして、安倍晋三は「道徳」の強化を図ろうとしている。
彼が言う教育の再生は、敗戦で廃止されたはずの教育勅語を復活させるもの。
皇国師範、國體という考え方は一つの家族だという思想で、国と家が家族国家という形で血がつながっているという考えで、天皇絶対主義に通ずる。
自民党の改憲案には、個人の尊厳がどこにも書かれていない
国が一位で、普遍性のない教育をしようとしている。
子供たちが自分で学ぶ 主体性のある学習が必要、マイノリティはマジョリティという考え
少数者に対する排除や国家概念は危険で、排斥という危険な思想が彼らの道徳教育だ。
学校でどんな道徳教育を受けているか、小さなお子さんに聞いてほしい。 そうすれば世代間の会話が始まるはず。
◆
小島慶子氏 「
学びが世界を変えていくー日豪往復で見えたこと」
ディレクターを退職された夫と小学生中学生の男の子と一緒にオーストラリアに移住。
小島氏は日本に出稼ぎに来る形で、講演や執筆を行っている由。
そんな生活の中で多様性に生きる必要性を感じている
本人は発達障害(ADHD)という診断を受けたが、病気ではなく、固有の特性と思うようになった由。
速射砲のように飛び出てくる言葉や脈絡のない話し方にメモるのが難しいお話でしたが、3日間の講座の内容は一本の線でつながっていて、次代を担う子どもたちや若者に伝えるべき、多様性のある思考を我々に教授してくれたものでした。
会場は、前川喜平氏の時が、空席がないほどに満杯でした。 あと、中島岳志氏は40歳台半ばのようで、こういう若い思想家の存在が日本に光を当ててくれるのではと、非常に頼もしい思いがしました。
「保守すること」の意味もよく分かりました。 そういう観点からすると、今の安倍政権に迎合している自民党をはじめ、公明党や維新なども、これまで先祖が永々と築いてきた社会規範を壊し、我田引水、自己権益に埋没していることがよくわかり、本来の「保守政党」ではないことが分かりました。
色々な形で、一般市民から収奪し、低所得者や各種被災者の生活を顧みず、憲法で謳っている基本的人権が守られない政治に拘泥しているのが、今日のアベ政権であって、その実態を多くの市民が知るべきでしょう。 そうしなければ、自分たちの生活を守ることができないのです。
会場の入り口では、古本市場が開かれていて、講座参加者が持ち寄ったり後援協賛会社から出されたと思われる書籍が販売されていました。 中には新古本というのか、出版元に戻ったらしい新本などもありました。
ただ、床に並べられた書籍の内容を確認しながら買い求めるのはちょっと至難の業。
我が家は3日間で20冊も購入。 家に帰ってみたら、何でこんなの買ったのかなと疑問に思うものもありましたが、もともとこの古本市場の売上は、「未来を担う子どもたちに図書を贈呈」するための寄付に充当するのが目的だとのこと。 不要な書籍は他に回すか、
社会に不適合な思考の書籍は焼却処分するのがふさわしいでしょう。
来年の信州岩波講座でも今回と同様の学習ができることを期待し出かけようと思いました。
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