さて、当方の住まいの隣地では、先月から一戸建ての新築工事が行われている。 もともと我々が住む前から借地人の家があり、住人は年老いて最近では他人が住んでいたようだった。 40年近く暮らしているが全く顔を合わせることもなく、どういう人が住んでいるのか分からず、傷んだ屋根に穴があくなど廃墟数歩手前の状態になって、火事を出されたらと以前から気になっていたのであった。
春先、地主が底地を不動産業者に売り、業者が借地人と折り合いをつけたのであろう、測量の立会いなどして、先月から建築工事が始まった。
建売物件の工事を眼の辺りにするのは初めてなので、窓辺から一部を写真に撮ってみた。 基礎工事までは通常見られる工事であったが、大工仕事が少し変わっている。 旧来の日本建築のように柱や梁を組むわけでなく、またパネル工法というわけでもなさそうだ。 まず幅5~6cmほどか薄い平板を組み合わせて格子状の枠を作り、これを壁面として立てて行き、壁には合板を張りつけて行く。
一階の間取りに応じた格子状の枠が立つと、天井というか二階の床部分の格子枠作られ、床板とおぼしき合板が貼られていく。 二階も同様に間取りに応じた格子枠を作り、それを立てて行き、最後は屋根部分の梁の組み合わせとなる。 地震の揺れに抗するために、筋交いを入れる必要があろうが、あまり見られない。 また柱と梁が交差するような部分には、相応の金具を打ち込んで強度を増すようにする筈だが、そういう作業の跡も見られない。 外側の角部分に薄いトタンのような金板が張ってあるが、素人が見ても強度があるとは到底思えない。
まぁ、どんな建て方でも、建物全体として強度があれば問題ないであろう。 少し気になるのは断熱材搬入の様子が無いことだ。 一階の床下には、薄い発泡スチールが敷かれてあったようだが、外壁部分には、今の所何もない。 内装工事の中で発泡スチールをはめて行くのであろうか。 発泡スチールが断熱材として相応しいのか知らないが、自分自身そのような現場を見たことはない。 さらに不思議なのは、木造建築の現場だと通常ノコギリや金槌の音がするが、この現場では釘をエアーで打つエアーガンの音ばかりがしている。
先行している別の現場では、すでに外壁にモルタルが吹付けられている。 たぶん壁材を使うよりモルタルの方が費用はかからないと思う。
この一連の作業を大工一人でやっているが、彼は朝7時半には現場に来て夕方6時半まで働いている。 大工が乗っている車を見たら、東京から2~3時間もかかるような地方都市のナンバーであった。 人件費の安い地方都市から職人を手当てしているのであろう。
以前、建設工事に携わっている人に聞いたことがあるが、建売物件の建設費は通常は7~8百万で、良くても1千万で造るとのこと。 建売の坪単価は20~30万ということになる。
そこで販売業者のサイトを探したら、すでに完成予想図が載っており販売価格は5300万円となっていた。 路線価からすると、おおよそで土地が3000万、建物が2300万という内訳になるのであろう。 業者は建物だけで千数百万を、、借地権の買取を上手にやっていればそこでも利益が出ているはずで、販売価格の3~4割の利益を稼ぎ出しているであろうと予測される。
不動産は「せんみっつ」商売。 すぐに売れなければ資金コストがかさむこともある。
まだ建設途中であり、どんなふうに完成するのか分からないが、2週間ほどの作業を見ていて、自分ならこんな家は絶対に買わない。 5千万円以上の金を出すなら、交通や買物に至便な、強度設計やセメントの偽装のない中古マンションを選んだ方が得策であろうし、良い住環境があれば売買価格が極端に下がることはない。 それに引き換え建売物件は10年もすれば実質価値ゼロに等しい。
しかし、戸建物件を求める人達は業者の美辞麗句、手練手管に騙される。 駐車スペースが2台あり、園芸や家庭菜園も出来ると言われれば、殆どの人は欲しくなってしまうであろう。
諸経費を入れれば総額6千万近い買物になろうが、このうち3千万を借入にたよるとすると、大雑把な例として20年間毎月8万、ボーナス月50万返済となる。 それこそ公務員か上場企業の中堅サラリーマンでないと払えないであろうし、20年もの間、安定した雇用が保障されるわけでもなく、収入の中からこれだけの支払いを続けるのはそれなりの負担にもなろう。
売買契約の中には瑕疵条項があるというが、10年ほどの期間内に特段の問題がなければ保障があってないに等しい。 物の購入は買うまでが客であって、金を払ってしまえば客でなくなり、客は弱者に売り手が強者になることをよく悟るべきだと思う。
自分は、現在の場所で3回、2業者による建築を、また黒姫では地元業者による建築を体験して来た。 一度は、フィンランドのプータロー(木の家)という家を建てたが、この基礎工事では湿気遮断シートを貼ったベタコンで、圧縮された断熱材が床下、壁、天井など全面に敷かれていた。 家族が一番満足した家でもあったが、日本のような湿気のある気候には適さず痛みもあって、現在は建て替えてしまっている。
黒姫の家は建てて18年が経ち、仕様の古さはあるし貼ったクロスに糊跡が見え出すなどしているが、全体としての古さや痛みはなく満足している。 やはり注文建築に優るものはなく、また建築後の日常的トラブルに対しても柔軟に対応してくれる業者なので安心している。
小さな家でもいいから、もう一回だけ家の建築を体験してみたいと思っているが、我々には先立つものがない。 若い世代に譲りたい所だが、我が子達には不動産を決して買わないように言っている。 自分の家に住むということは生活(思考も含め)が固定化されてしまうし、所有欲は満たされ世間にも誇れるであろうが、そのための資金負担は大きいうえに、かかる不動産の減価償却は急流を下るがごときであるからである。
件の物件に住んだ人が20年後売却しようとしたら、建物は価値ゼロのうえ解体費用が必要となる。 かつてのバブル期のように地価が2倍になっていれば、当初の購入費に相応するが、まずそういうことはないし、逆に天変地異でもあれば土地の価格は二束三文になってしまう。 土地や建物を金融資産として固執する時代ではなくなったと思うが、地価上昇の流れを維持し、高額な固定資産税の徴収を図りたいのは役所自体であろうから、なかなか考え方を変えるのは難しい。
一階部分の工事現場 | 一階天井部分 | 二階の床板 | 二階の外壁(内側)部分 |
二階屋根の梁部分 | 18年前の黒姫の建築中の我が家 |
今日の暦から : 週に一度は冷蔵庫チェック
2 件のコメント:
写真をみてみると、アメリカの2x4とか2x6とかいう建築様式によくにてますね。
いわゆるツーバイフォーという建て方でしょうか? 日本でもこの言葉はよく聞きますが、私自身こういう現場を見たのが初めてなので、何か腑に落ちない感じがしたのでした。 まぁ、日本は地震国ですから、全体で強度を持たせるようには配慮しているでしょう。 ただ、どうも断熱材はあまり使わないようです。 家内の知人が20年前に建売物件を買って、あまりに寒いからと建て直しをしたそうですが、取り壊しの際に全く断熱材が使われていなかったことが分かったそうです。 日本の業者は偽装とは言わないまでも、昔からぎりぎりの所でコストをかけないように工夫しているようです。
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