副題に「聖書片手にニッポン36年間」と題された、フランスから来てたぶん在日60年にもなろう、ジョルジュ・ネランという、カトリック教会の神父さんが日本語で書いた本を読んだ。 出版は1988年で、当時67歳というから現在では90に手が届くお歳になっておられると思う。
ネランさんは、一般人が信じがたい非常にユニークな活動をされて来ている。 その活動とは、スナックを経営しているのである。 それも大変猥雑な東京・新宿の歌舞伎町なのである。 新宿区役所の近くにあるエポペという名のスナックで、1980年の開店だというから29年も経っていることになる。 と書きながら、このエポペを昔から知っていたが、自分自身は機会がなく行ったことはない。 現在は日本人のスタッフが切り盛りしているらしいので、直接お会いするチャンスはなかろう。 さて、そのエポペ開店の所以であるが、社会人への宣教を考えた時、サラリーマンの本音が出るのが酒場であると気がついたらしい。 しかし、神父ではこの道の全くの素人で、バーテンダーの学校に通うことからはじめ、スナックで働きながらシェーカーの振り方など学んでから開店に及んだ由。
本書は、ネランさんの生い立ちから始まって司祭となる経過を述べ、宣教の仕事がしたいと日本へやって来て、はじめは長崎そして東京で、ネラン塾など活動をしてきたと記している。 東京の信濃町駅脇に、貸ホールなどをしながら学生のための集会室を備えていた真生会館という建物がある。 現在の経営実態は知らないが、かつてネランさんはこの建物の館長をされていた。 自分が学生の時、あるサークル活動でこの場所をよく使わせてもらっていたので、たぶん何度も会っていると思うが、40年以上の歳月が経つとこちらの記憶もかなり曖昧で顔を思い出せない。
そんな昔を思い出させてくれるような、懐かしい内容に溢れているのが本書なのであった。 「我とは何か、汝とは何か」などと喧々諤々と青二才が集った場があそこにあったわけだ。
本書の後半では、「キリスト教とはなにか」、「ニッポン、天国と地獄」と題し、聖職者とは思われないような発想で、機智に富ん意見を述べられ、たぶんその多くは一般人でも合点できるのではないかと思う。 修正や校正はあったろうが、ネランさん自身が日本語で本書を記したそうだ。 日本酒好き、温泉好きなど、日本と日本人の良さを本当に理解している外国人の一人だと思う。 それにしても、10ヶ国語以上話すグスタフ・フォスなど海外からの宣教師には、一芸どころか二芸、三芸に長けている人が実に多い。
本書のタイトルの「おバカさん」だが、これは遠藤周作さんの「おバカさん」という小説に由来するもので、ネランさんをモデルに遠藤さんが書かれていたためで、そのタイトルを逆用したものであった。
ネランさんの生まれ故郷のリヨンは何もない所と書いているが、私たちは一昨年この街を訪ねており、旧跡の多い賑やかな街だという印象を持っている。 リヨンは2つの川に挟まれ、高台には大きなカテドラルがあり、絹織物の生産地だとかで、確か横浜と姉妹都市を結んでいると、何かの資料で見た覚えがある。
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