昨夏、須坂の浄運寺で開かれた無明塾へ出かけた際、講演者の一人である加賀乙彦さんが著作の「永遠の都」を話されていたので講演後に買い求めてみた。 7分冊に分かれた長編で、しかも1冊が500頁もある分量なのでなかなか読み進まないで来ていたのだが、先日やっとのこと読み終えることができた。
加賀さんについては、精神科医として拘置所の死刑囚などへの医療を行って来られていたという程度の知識はあったが、小説家であるという認識はこれまでなかった。 また医務技官という役職を経てきたと、厳しい人格の持ち主ではないかと勝手に思っていたのだが、無明塾の名だたる講演者であった中野孝次さんのことを、「清貧の思想」をはじめ「清貧」を売り物にして、あの人は随分と潤っていた筈だと、冗談ばかりを話されていたのを聞いて、印象が随分と変ってしまった。
さて、その本書「永遠の都」だが、日露戦争の時代から終戦後の昭和時代まで、東京・三田にあったとした時田病院を舞台にして、種々雑多な人物が登場して来るのだが、あの時代の市井の状況はあぁだったのだと納得できる内容であった。 2.26事件や東京大空襲での惨状、学童疎開の様子、また、プロテスタント教会もカトリック教会も時代に迎合して戦争協力した実態など、やはりそうであったのだと頷ける場面が多い。 たぶん、直近の歴史なので時代考証を的確にされて書かれたであろうから、それらは事実として認識できると思う。
1冊目の後半に、著者と大江健三郎さんの対談が載っているのだが、最後にここを読み直したら、自分の読み方は表面的な事象を追い実に平面的であったということが分かった。 著者が言う「永遠の都」などないとか、小説に結論はない、また、史実を求めるだけでは歴史は分からず、小説という創作の中で問題点が明らかになるという言質にも、何気に納得するものがあった。 「宣告」や「フランドルの冬」なども読んで、著者の人となりを知ろうと思う。
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